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我が愛犬は猟犬です

ある雨の日の夕刻、犬の散歩に行っていた旦那さんが血相を変えて飛び込んできました。

「トヨ(犬の名前)が川原で猪と戦っとる! 助け呼んでくる」

一瞬目が点になったものの、冗談ではないことがすぐにわかったので、とにかく台所の火を止めて、カッパを引っ掛けて私も飛び出しました。 犬と猪が戦っていたという場所は道を渡ってすぐ下の川原の笹薮らしく、旦那さんが指差してくれるのですが、姿は見えないし音もしません。とにかく現場に駆けつけるべく川原に下りて近づいて行きました。竹藪なのでボコボコしてるしぬかるんでるし、足場としては最悪です。が、いかにも猪の居そうな場所です。

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まさか目にするのは愛犬の倒れた姿ではありませんようにと祈りながらの一歩一歩は重たく、気ばかり急いてしまいました。少し開けた場所に出て、目を凝らして耳をすませていると、上から様子を見ていた旦那さんの声がしました。

「おった! 川の方や、生きとった!」 そして道を使わず上から急降下で滑り降り、川の方にザクザク進んでいきました。私も後れをとりながら進んでいくと、あらあら拍子抜けするくらいいつもの愛犬の姿が見えました。

首輪をつかまれて尾をふりながら当たり前のようにこちらに来てくれた姿を見たら全身の力が抜けそうになりましたよ。パッと見た感じは怪我もなく、水に浸かったのか濡れまくってはいましたが、むしろさっぱりした様子での再会になりました。でもよく見るとあごの下に傷がありました。戦いは確かに行われていたのです。

推測に過ぎませんが、犬に噛み付かれた猪は、必死で逃げて傷を負いながら川に流されていったようです。犬は追って川に入りながらも泳いでまで捕まえる気はなくで、飼い主も呼んでいるし、戻ってきたのでしょう。十分楽しんだという顔をして。

猟犬である彼にとってはそれは当たり前の在り方だったのかもしれません。でも初めて猟犬の飼い主となり、まだ猟師になってもいない田舎暮らし一年目の身にはあまりに強烈な夕暮れでした。

いつも子供たちもそろって普通の道を散歩しているときはわからないのですが、時々人が変わったように荒くれ者になってしまうことがあるのです。そんな時は決まって野生動物が絡みます。

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以前、まだ雪が残るくらいの頃、夕方に私が一人で犬を連れて散歩に出たことがあります。その時も軽く冷たい雨が降っていました。リードをしっかり持っていたはずが、突然犬が山に向かって真っしぐらに走って行ったので、ついリードを離してしまいました。見上げれば見える距離で何やらゴソゴソやっているので、何度も呼んでみたのですが、顔を向けてくれるだけで来てくれません。仕方なく私も山を上がっていくと、息絶えた小さな猪に噛り付いていたのです。ヒィッと叫ぶだけでは止めてくれようもなく、リードをつかんでぐいぐい引っ張りました。すると抵抗はしつつ、名残惜しそうにしながらも一緒に帰ってくれました。その猪は犬が着く前に既に倒れていたみたいで、少し離れていても臭いはしたので、犬にとっては駆け付けざるをえなかったのでしょう。

あの時も我が愛犬のワイルドっぷりにぞくっとしたものですが、今度はまた激しい体験になりました。普段は無駄吠えもせず、素直で甘えん坊な彼なのに、本質は間違いなく猟犬なのです。猿を追い払い、鹿を寄せ付けず、猪にまで飛びかかっていくのです。もともとは熊を狩るマタギのパートナーとして受け継がれてきた北海道犬の血は確かだったようです。たまたまのありがたい縁あってもらい受けた犬ですが、この環境は思っていた以上に彼にはぴったりだったのですね。恐ろしくもありますが、強い生き物にどうしようもなく惹かれてしまう私にはますます愛しい犬となりました。あとはこの犬の飼い主としての度量がつくとよいのですがね。強烈な体験を重ね、足腰を鍛え、マタギとはいかないでも野生とせめぎ合う道を、ビビりつつも一歩一歩上っていきたいものでありますよ。

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