昨年のことになりますが、夏休みの小学生から高校生までの子供の読書感想文コンクールと並行して、「家庭における読書指導記録文」というコンクールが、三重県図書館協議会と毎日新聞主催で行なわれておりました。締切は十月末、発表はその一月後で、もう昨年内に表彰まで終わったコンクールですが、その時出した私の記録文が、最優秀賞に次ぐ優秀賞を頂いておりました。
テーマは「子供が良書に親しむために家庭がどう取り組んだか」という、私以外誰が応募するのだろうと危ぶんでいた通り、三重県下で応募数は五点のみでした。あまりにもマイナーなコンクールではありましたが、私には今までを振り返る良い機会となり、いちおう認めていただいたので、感謝です。図書カードもいただけましたし。最優秀の文章は新聞掲載されたようですが、次点は表彰だけだったので、マイブログにいちおう載せておきます。二千字の作文で、タイトルは「私と子供の読書遍歴10年」です。
子供と私の読書遍歴10年
10年前初めて子供を授かった時に真っ先に嬉しかったのは、「この子とこれから子供の本を楽しめるんだ」と大発見したことでした。もちろん初めての子供でドキドキは人生で一番であったし、上手に育てる自信なんて微塵もなかったのですが、ともかく子どもが居ることで再び子供の本を探究できるであろうことは、他の様々な苦労を補ってくれるほど嬉しいものでした。私は字が読めるようになってからはずっと本に親しみ続けておりますが、大人向けの作品よりも子供が描かれている作品のほうが何倍も好きで、絵本を声に出して読むのも好きです。けれど児童文学を専攻しているとか図書館司書の仕事をしているというわけではないので、児童書ばかり手に取るのは気が引けていたのです。けれども子供と一緒なら堂々と読めます。まずはいい絵本をたっぷり楽しんで、ゆくゆくは読み物も子供と一緒に開拓していきたいと、さっそくリサーチに取り掛かりました。
当時私が暮らしていたのは中国で、残念ながら日本語の本屋さんも図書館もないし、たまに帰国したときはずっと本屋さんに入り浸りたいくらいでした。必死で何冊か選んで生まれてくる子の本棚を用意しました。最初は10冊にもならないほどで、本棚に玩具も一緒に置いてある状態だったのが、引越を重ねたこの10年で絵本の蔵書は数百冊に増え、もう買い足す場所もないくらいギュウギュウ詰めです。最初から立派な図書館の近くに住んでおればこんなに買う必要もなかったかもしれませんが、大好きな本がいつもそばにあることは私たちには他の何にも替え難い望みなので、集める機会に恵まれた本が子供と母の歴史そのものです。自分が小さい頃に読んでもらっていてやはり子供が気に入ってくれた本、新しく出た作品で子供がいなければ手に取ることがなかった本、贈り物で頂いて気に入った本と、手にしたきっかけは様々で、今しかできない本棚になっています。昔からの本で宝物は『ふたりはともだち』のシリーズ4冊や『しょうぼうじどうしゃじぷた』など、それに「14ひきのねずみ」や「バーバパパ」といったところでしょうか。新しいほうでは工藤ノリコさんの「ピヨピヨ」シリーズやかがくいひろしさんの作品全般に「おれたちともだち」シリーズもなくてはならない仲間たちです。
子供が絵本に会うときは、耳で聞く音と目で見る絵と読む人の雰囲気をまるごと受け取っています。一人で見るときも聞いた音と読んでもらったときを思い出しながら満足そうに確認していることが多いようです。自分で字が読めるようになっても、まずは読んでもらって耳で聞く体験がある本とない本では印象の深さが違うこともあり、絵本だけでなく創作童話や昔話、民話なども読み続けてきました。こぐま社の「こどもに語る童話」の数々や実業之日本社の『日本の民話』および『世界の民話』、それにムーミン童話にはずいぶんお世話になったものです。聞くのがメインのお話はお昼寝前に読むことが多く、静かに延々と読んだものですが、長いお話のあとは眠りが深くなるのか親子でたっぷり夢の世界に浸った日々を思い出すと微笑まずにはいられません。小学生になりあまり時間のなくなった今ではたっぷり読むことも少なくなったので、小さな頃にいくらでも読んでいたのはかけがえのない恵まれた時代でした。
気に入った物語や絵本を繰り返し子供と一緒に読むことは、慌ただしい生活の中ではいつも簡単というわけではありません。けれど意識して共に読む時間を持つことで、親子で共通の言葉やイメージ、親しみ深い登場人物像が築かれていきます。暮らしの中では出会わない場面や事件を本で一緒に体験することで、全く同じでないにしても共感することができ、普段の会話でも本の言葉やイメージが活き活きと自分たちの間を流れていることに気付きます。頭の中に共通の引き出しがたくさんあることで、共に過ごす時間が少なくなっても引き出しを使って説明したり伝えあったりすることができます。
小学生になってからは子供が自分で読むことが増えました。母のおすすめが気に入らなかったり、子供の好きな本が母には気に入らなかったりと幼少の頃の一体感はなくなりましたが、刺激を与え合うことはできます。子供がいつ「ズッコケ三人組」にハマってくれるのか楽しみだし、児童書をリサーチし続けていたおかげで上橋菜穂子さんの傑作の数々に感涙することもできました。与えるものより与えられるものがうんと多かったのかもしれません。読書の楽しみは下の子にも伝染して、姉が妹に読んでやっている姿は母にとってはなによりの勲章です。
子供は物心つく前の読み聞かせなんて全部忘れてしまったとしても、当時好きだった話を読み返すと胸にこみ上げるものがあります。喉元過ぎれば熱さを忘れ、思い出すのは幼児の満足そうな顔と柔らかいぬくもりばかりです。読み聞かせの軌跡に感謝します。
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