顔が見えるご飯

子供たちの小学校の給食センターでお仕事を頂いて一年余りになりました。週に三回程度、二時間ずつなのでほんの些細な仕事ではありますが、毎日のリズムを作る中で重要な一角を占めているし、学ぶところは多く、働けてよかったなぁとささやかな幸せを噛み締めております。二時間だけど、おやつのご相伴にあずかれることも多く、新作の試食もできるし、ああ簡単に餌付けされていることが明白ですね。

家庭の料理係として試行錯誤で十年以上やってきて、通信で薬膳師の資格を取得したこともあるといえど、食関係の仕事に関わるとはちっとも考えにはありませんでした。田舎暮らしといえばペンションを経営したりカフェを開いたらよいのではとイメージを持つ人は多いけれど、気心の知れないお客様と否応なく向き合って評価されねばならない仕事は、私にはとてもじゃないけれど務まりそうにありません。評価って気にすまいと心掛けていてもやはり怖いほど気になってしまうし、気持ちよいサービスとピリピリのせめぎ合いでヘコタレてしまいそうですから。文章ならいくら風評にさらされても立ち直る根性がありそうですが、食はそこまで本気の自信がありませんので。それでも、自分の関わった給食という食事が学校の子供たちや職員の方々の食のひとつになっているというのは思っていた以上に嬉しいのです。選んで注文したごちそうではなくて毎日のお任せなので、好き嫌いのある子には美味しいばかりではないのです。もしかして苦しみを与えていることすらあるかもしれない。それでも残さないように一所懸命食べていたり、初めはもっと偏食だったのがだんだんマシになったり、給食で食べられるようになって人参が美味しくなったりと、同じクラスの子の話を娘たちからチラホラ聞くと、調理補助でしかない私もなんだか誇らしい気持ちでいっぱいになります。

そんな関わり深い給食を学校で子供たちと一緒に頂く機会がありました。参観の日に保護者も一緒に活動して、その後一緒に給食も食べられるという、小さな学校ならではのお楽しみの日でした。しかもメニューは娘たちが大好きでいつも自慢していた「ちくわの磯辺揚げ」がメインで、ヒジキの煮物とキャベツの甘酢漬けです。この日に限らずここの給食はとことん身体に優しい献立が多いですが、手間ひまを分かるだけに一層身体に染み入りました。いつも一緒に働いているあの人この人が作ってくれたとわかるのは特権ですね。

青森で「森のイスキア」という活動をしてらした故佐藤初女さんが述べておられたことに、「心を込めて美味しく作れば子供は食べる」との格言があります。この方は風前の灯火だった青年の心を、おむすびによって生きる気力を取り戻したという話もあるほど、本当に心を込めた丁寧な食事作りをなさっていました。お米の一粒一粒、野菜のひとつひとつ、毎日毎回真剣に向き合って一番いい状態を見極めて、炊いたり茹でたり煮たりといった基本を大事に何のよそ見、うわの空もなく調理に向き合っておられたようです。憧れて続ける価値のある方ですね。

さて、そろそろ次年度の契約更新時期になり、二時間だけの補助の仕事は必要なくなってしまうので、私も人員削減されるのかと冷や冷やしておりましたが、残れることになりました。頻度は減りますが、仕込みから後片付けまで全部行う調理員として、育ててもらえることになりましたよ。胸をはれる仕事になればいいです。丁寧にご飯を炊き、食材を切り、調えて仕上げて。残飯がほとんどないというこの小学校の実際を目にできるのも楽しみです。今は調理が済むと仕事は終わりなので、すっからかんの食缶メッセージは見れていないもので。もちろんその前に卒業していく大事な子たちの土台となる一食一食を、遠巻きに支えていかなくちゃいけません。職員を合わせても四十名分程の給食なので、いつも急ぎながらも顔を思い浮かべながらよそっていますよ。この給食センターがなくなるかもとの話があり、阻止すべく奮闘してくれている人々がいます。小ちゃな場所でこそできることがある。恵まれた環境をとり潰されると、経費は削減できるのでしょうが、少なくとも顔を思い浮かべながらよそうことはできなくなります。些細なことかな、大きなことかな。私にお取りつぶしの流れを変える大きな力があればと悔しい思いをしたものですが、力をぶつけ合うばかりでは傷痕が残ってしまうのでしょう。まだ時間のある恵まれた今のうちに、少しずつ少しずつ、幸せな一食一食を守っていきたいと願っています。

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