迫りくる三角

七夕は見事に晴れてくれたけれど、まだまだ梅雨が続きますね。雨は音も匂いも好きなのに、降ってくれると安心するし涼しくていいのに、気圧の変化にはどうも対応しにくいのが目下の悩みどころです。東洋医学で言うところの気、血、水のうち水のバランスがもっぱら弱いので、すぐ水毒状態になっちまうんだそうです。漢方も効果感じず二ヶ月で止めてしまったし、なんとかしたいのはヤマヤマなのに、人一倍、いや人三倍お茶飲みな私が体内の水分を持て余すのは致し方ないことなのかもしれません。湿気が多いと昔の家はすぐに家中湿ってカビ臭くなります。コバエもわきまくるし、梅干しはカビそうだし、仕込み味噌も妙な臭いがするし、急に採れすぎた野菜もあっという間に腐りそうだし、大量に仕入れ過ぎた赤紫蘇の塩揉みにも追われ、あーなんとも八方ふさがりですよ。いっそこんな田舎なんぞ飛び出して小ざっぱりとしたマンションでテイクアウトでもできたらいいのにと無い物ねだりをしてしまうのはこんな時です。育児も家事も農作業も投げ出して、とまで考えると投げ出すものの勿体無さにすぐ引っ張られてまた気を取り直すのですけどね。よかったよかった。

気が滅入っているのにはもう一つ大きなショックが響いているのです。

何日前かの夜に、ご飯もすみほっこりしていたところ、お隣さんが呼んでいます。何かなとみんなで出てみると、すぐ近くでマムシを捕まえたとおっしゃるのです。参考のために見ておかなくてはいけないと、軽トラの荷台にのせられたそのお手柄を、沢山の解説も一緒に至近で拝むことになったのです。首を小道具で突き刺さされたマムシはもうお陀仏になりながらも尻尾はピクピク動いていました。お腹は膨らんでおり、子供がおったようです。思ったよりは小さくて、模様はマムシ草そっくりでした。いや、マムシにそっくりだからマムシ草と呼ばれていることはわかりきっているのですが、どちらを先に知っていたかですね。

今までもマムシは恐ろしい毒ヘビで、三角の頭をしていて、夏の草場は注意とは聞いていたものの、実物はしっかり見たことはありませんでした。マムシ酒になって瓶に入っているのは見たことがあったかな、それともハブ酒と混同しているのか、はっきりしません。どちらにせよそんなに身近に感じていなかったのです。もう蛇は姿だけで充分に怖れているので、実物教育の刺激の強烈さといったら、時間が経ってドキドキが続いていることに気付きました。

マムシは夏の土用の頃に子どもを産む習性らしく、卵を産むのではなく、孵化した子どもを口から吐き出すのだとか。有名な話だとは思うのですが、私は聞き覚えがなかったので、子蛇を口からニョロニョロと次々に出す母蛇の姿を想像してゾッとしてしまいました。しかも子を吐く時に子を傷付けてはいけないからその前に毒のついた牙を研いでおく必要があるとか。どうやって研ぐのかといえば、他の生き物にかじり付く、と。それで土用前の母マムシは草場に隠れて突然噛みつきかかってくるのだとおっしゃるではありませんか。

自分の身を守るためでなく、自分が子を傷付けないよう子を守るために、無関係の我々に飛びついてくる。その攻撃はしかもかなり致命的です。歯を研ぐだけやら石にでも噛り付いていればいいものを、わざわざ他の生き物を犠牲にするとはなんちゅう習性なのでしょう。だから怖いから気をつけましょうね、と知識に留めるだけにするには私には理解不能な刺激が強くて、解せない解せないと頭がグルグルしてしまうのです。

後日またお会いしたところ、母マムシの腹には子蛇が5匹おったそうです。どんな生き物も子を守るためには必死になるものだし、またそのために母が強く賢く堂々とあることには異論はありません。私もまた母としての強さと賢さと度胸が欲しくてたまらない身であるし、どんな生き物も親にとっては可愛い赤ちゃんであるとは思い続けていたいのです。それでもマムシの赤ちゃんは生まれない方がよかったのか、生まれてもよかったのか、またグルグルグルグル考えてしまいました。

土用前の草場はどうぞご注意を。考えすぎて自滅する前に私には安眠が必要ですね。眠りを誘うせっかくの低気圧にありがたく助けられて、トゲのない夢が見れますように。

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