美しきエピソード記憶

好きな花は何かと問われたら、何を基準に答えを出せばよいのでしょうか。私は基本的に明るくわかりやすい花がいくつになっても好きなので、チューリップとかひまわりとか、幼稚園から一貫して同じ答えを出しそうになってしまいますが、花好きのはしくれとして、もう少しかっこいい名前を挙げてみたい気はします。シクラメンはどうかしら?紫のバラと言ったものか?胡蝶蘭は名前は好きだけど好きな花ではないなぁなど考えていくうちに心を占めるのは、アザミなのです。野にツンと咲くとげのあるアザミです。

何もこの花が最高に美しいと信じているとか、クマのプーさんキャラの寂しがりやイーヨーが食べるからとかそんな理由からではありません。多分ただ単にこの花は、私が最初に種から咲かせたことがあるからなのです。その時は野アザミではなくドイツアザミという園芸種だったのでもう少し強さ控えめだったのですが、アザミといえば心に響くようになったので、もう今はどこの野アザミを見てもなんだか懐かしく嬉しく花とつながるような気持ちになるのは、大切な記憶が自分に根付いているからなのです。

人の記憶には二種類あると子供の教材に載っていました。繰り返し覚えて身につく記憶と、一度の体験でずっと覚えているエピソード記憶の二つだそうです。何を身につけるにしろ、毎日の繰り返し練習こそが大切なことは間違いなく、一流程練習量が半端ないのはよく知られながら、なかなか真似のできない話です。手に付く、身につく、モノになるのは理屈でもへ理屈でもない心身一体の記憶に他ならず、練習は正直ですね。それでも頭の中を占めるのは体験と一体のエピソード記憶であることが多いです。何をしに行ったかは忘れても、初めて自分で電車の切符を買ったことは忘れなかったり、旅先の記憶が時として驚く程鮮明に残っているのも、きっと頭も心もドキドキしていた時だからなのです。

記憶は過去のことのはずですが、記憶に影響されるのは今の自分自身です。そして記憶は大体が美化されていますね。私は昔アザミの種を蒔き、葉が出て花が咲くのを観察し、確か日記にも書き、触ってトゲに何度も刺されて痛かったはずだし、同時期に他の花も咲いていたに違いないのに、きっと痛かったからこそ、見たことのないトゲトゲしいハナだったからこそ、鮮明に好きになってしまったのでしょう。そして一度強烈にインプットされた好感はずっと続いていて、今もやっぱり好き、につながるのだと思います。なんだか別な話のようですが、花の話ですよ。

私にとっての花の体験はアザミの他にはヒマワリか梅、シャガ、金木犀、桜など、すぐそばで存在感を放っていたものが中心になります。

もっともっと植物との体験の多いうちの子供たちには、どんな美しいエピソード記憶が残されていくのでしょう。それはきっと子供によって驚く程バラバラだろうし、もしかして何もろくに記憶に残さないまま成長してしまうのかもしれません。幾つの頃、どんな気持ちで誰と、何に揺さぶられるのか。いくら体験を増やそうとしてもその体験は本人のもので、親の思い通りにはいきません。わいわいと収穫した体験は味覚が味方なので、どの子の記憶にも残りやすそうですが、花の場合はどこまで心に根ざすことになるのでしょう。

これは先月初めにアサガオの苗を植えたところです。しっかり穴を掘ってたっぷりお水をあげたら無事に根付きました。で、今は

ツルがくるくると上昇していって、夏休みには立派なカーテンになりそうですよ。もし赤もので青も咲き誇って、上手に絵に描けたり、思いっきり色水あそびができれば、アサガオは特別な花になるかもしれません。でも年齢によってはすぐに忘れてしまい、どうってことないかもしれません。十分覚えてはいても、他の大きなイベントに吹き飛ばされてしまうことも十分あり得る話ですね。

今の数々の体験が未来にどうつながっていくのかは、私にも子供たちにもちっともさっぱりわかりません。きっといいものが育つと信じているから雨のようにあられのように野良仕事に駆り出しているわけですが、もしかしたら覚えているエピソードはほんの少しっきりなのかもしれません。それでもいい、土を触り、葉っぱを見て、花を見つけることを、そばにいる限りずっとずっと共にしていきたいのです。ずっとずっと続けていればそれはエピソード記憶ではなく、心身に身に付けた記憶になるのでしょうか。

そろそろ夏休みが近づいてきました。清流遊びと新鮮野菜。触覚と味覚を重視した体験を求めるなら是非三重の飯高に足を運んで下さいね。

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